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わたしたちは二十歳になると、大人になることを迫られる。 でもその瞬間に、自分が大人になったという実感はない。
じゃあ、いつわたしは、大人になるの。
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都会の中心部から電車で揺られること、約30分。 水辺にあるこの街には、ビルの建ち並ぶ都会とはまた別の魅力があった。
開発が進み、海の見える、開けた、なにもない土地に、 「ゆうえんち」が建設され、 ランドマークである“観覧車” は、その街の印象に大きく色づき始めていた。
* * *
三年生の帷陽一(とばりよういち)は、夏休みを前にして 進路や将来について悩み、答えを出せずに居残りをしていた。
夕方になり、いつの間にか居眠りをしてしまっていた陽一。 目覚めると目の前に一人の女の子――海殻(かいがら)かもめが立っていた。
「帷くんの進路希望の紙には、“大人になりたい” と書いて出しておきましたよ」 当たり前のように告げるかもめ。 名前も知らない女の子の勝手な行動に呆れつつも、反発はしない陽一。 答えが先延ばしになることは、陽一にとって都合の悪いことでもなかったのだ。
邂逅から数日間、陽一とかもめは居残り教室で顔を合わせる。 彼女は進路を決めているが、何度も書き直しになっているのだという。
「まほうつかいになりたいんです」 「……もちろん、ファンタジーとかの意味じゃなくてね」
将来の夢自体はぶっとんでいたが、 自分自身に真剣に向きあおうとするかもめに、陽一は興味を持っていく。
ランドセルなどもう背負わなくなった少年少女たちの、等身大の姿。 真夏の水辺の街にあったかもしれない、“てんし” と“まほう” の物語。
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